Yの悲喜劇

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腐女子/商業BL/読書/漫画/アニメ

【ゲーム】文字書き女オタクに特におススメしたいシャニマスGRAD桑山千雪編

  最近TLで話題になっていた増田。

anond.hatelabo.jp

 同人活動と承認欲求からくるもやもや話は定期的に増田に書かれて、定期的にTLで燃えているのを見る。

 ここで書かれていることの是非はさておき、自分の創作物を世に出したら他人から何かしらのリアクションが欲しい、という気持ちはめちゃくちゃ分かる。その欲求を元に自分や他人を判定することがおかしいというコメの指摘も正論だと思う。

 

 なんで炎上した増田に触れたかというと、アイドルマスターシャイニーカラーズで最近実装されたG.R.A.D編 桑山千雪のエピソードがモロにこの話だったからだ。

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アイドルマスターシャイニーカラーズ 桑山千雪 優しい笑顔が印象的な、事務所のお姉さん的存在。

 

 G.R.A.DはWINGはじめ今まで書かれたアイドルのエピソードの延長戦にある。と思っていたので千雪さんのG.R.A.Dを見てびっくりした。千雪さん、そんな悩みを抱えていたのか……。*1

 千雪さんのG.R.A.Dはアイドルとしてというか、同じく創作物を披露する女オタクとしてめちゃめちゃ良かった。今後、自分がこのブログで記事を出す時や、小説をpixivなりにUPする時の自戒にしたいくらいよかったです。

 

 以下、長文で千雪さんのG.R.A.D編感想です。千雪さんのPではない*2ので、怪文書度は微妙……だと思う。

 全編通してネタバレなので、千雪さんのG.R.A.D見てない方はそちらを先にプレイしてから見たほうがいいです。

 

 

1.桑山千雪は負けたくない(シャニマスPとしての感想)

①アイドル桑山千雪≠ただの桑山千雪

 G.R.A.D千雪さんのエピソードを短くまとめると以下の通り、だと思う。

  • ラジオ発企画として桑山千雪手作り巾着をネットオークションに売り出す→とんでもない高値がつく
  • アイドル桑山千雪の価値に喜びつつ、千雪はHN「C.K」で素性を隠し色違いで同じ形の手作り巾着をネットオークションに出す。
  • お察しの結果に凹む千雪の様子を見て、Pが「桑山千雪」本人と向き合って話をする。

 正直、素性を隠してオークションに出した時点で展開を察したので、めちゃめちゃ胃に痛かった。

 千雪さんの行動を愚かだとは思わない。千雪さんだってアイドル桑山千雪って人が作ったものだからこそファンが高値で落札したことをわかっている。

けれど、これは凝ってて、デザインも印象的で心のこもった手作りで――

何より、千雪って人が作ったものでさ

みんなそのことに、お金に換えられない価値があると思ってる

(中略)

うん……でも、そのお金に換えられないくらいの気持ちを千雪に伝えようとしてさ……

お金みたいな、何か目に見える基準が欲しくなるんだ……きっと

 「アイドル桑山千雪の手作り巾着」が高値になったところを見て戸惑う千雪さんに諭すPの言葉。

 この言葉通り、千雪さんはただの桑山千雪としての価値をちょっとはかってみたくなっただけなんだと思う。単なる出来心だったけど、かなり現実主義なシャニマス世界の出来事なのでしっぺ返しがキツすぎた。いくらなんでも1円は酷い。

 もちろんお金ではかれることが全てではない。けれど、お金という目に見える基準で価値の差がつけられてしまったことに凹むのも仕方ないと思う。

②桑山千雪は負けず嫌い

 G.R.A.Dプレイ後に「薄桃色にこんがらがって」イベコミュを読んで分かったことなんだけど、千雪さんはめちゃくちゃ負けず嫌いだ。

 ただ、「仲間であっても負けられない」ストレイライトと違って、千雪さんは「自分自身に負けられない」から勝負にめちゃくちゃこだわる。

 「薄桃色にこんがらがって」は「雑誌アプリコットに憧れて育った過去の自分にケリをつけたい」から甘奈との勝負に出た。

 G.R.A.Dでは「落ちたって受かったって千雪は千雪だ」と分かっていながら、ただの千雪がアイドル桑山千雪に負けたくないとネットオークションに出品した。

 振り返ると、千雪さんは「目に見える結果」を求める傾向がかなり強い。勝負にこだわるのは、勝ち/負けという分かりやすい結果が欲しいからじゃないか。

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G.R.A.D桑山千雪 優勝後コミュ

 G.R.A.Dという勝負に勝って、自分を応援してくれる人の存在を肌で感じたから、「アイドルの自分が好き」だと感じた。

 アルストロメリアが「仲良し・調和」を掲げるユニットだったから、G.R.A.D初プレイ時はこの優勝後コミュに「?」となっていたけど、「薄桃色にこんがらがって」を読んだ後だと一貫して「桑山千雪の言葉」だった。優しく甘い世界のアルストロメリアにいたから今まで勝負にこだわる姿が分からなかったんだ……。

③千雪は千雪

 G.R.A.D千雪さんコミュは振り返ると、目に見える価値を重んずる千雪さんが、目に見えない価値を信じることの難しさと大事さを理解する話だった。

 他のアイドルのエピソードでも思うけど、アイドルを続けていくには、結果だけを求めていくとそのうち潰れる。*3

 オーディションに受からなければ仕事はないけど、オーディションに落ち続けても腐らないメンタルが大事なんだなとシャニマスをプレイしていると強く感じる。

……自分の価値を知りたいっていうのは誰でも思うことじゃないか、俺だって一緒だよ

ただでさえ目に見える形で示すのが難しいものだし…… 誰かに決めてもらって納得できるなら楽ちんだ

……でも、値段を決めるのは、自分じゃなきゃ

 優勝EDのPの言葉。自分の作品に、まず自分で価値を決めることが大事だ。だからこそ、「イニシャルを縫いましょう」千雪さんなりの、勝ち負けではないケリの付け方だと思う。

 

2.何を求めて作品を出すか?(文字書き女オタクとしての感想)

①前提あってこその価値

 アイドル桑山千雪と、アイドルでないただの桑山千雪の価値は違う。長々と二次創作や商業BLをはじめとした女オタク界隈にいる人間としては、それは自明の理だ。

 G.R.A.D千雪さんのコミュは、pixiv小説界隈で読み替えるとめちゃめちゃわかりやすいと思う。

  • 友人からのリクエストで覇権ジャンルの夢小説(もしくは覇権CP)のSSを書いてpixivにUP→5000user超えでランキングトップになる
  • 反応に戸惑いつつも、フォロワーも増えたので本命ジャンルの夢小説(もしくは本命CP)の気合の入った長編を投稿→結果はお察し

 書いてるだけで胃が痛いけれど、よくある事態だ。

 なぜ「女性向けのpixiv小説界隈」で読み替えたかというと、絵の上手さ・華やかさがパッと見て分かりやすい=魅力があればクリックしてもらいやすいイラスト界隈と違って、女性向けのpixiv小説界隈はジャンル・CPに興味を持たれないとほとんどクリックしてもらえない。フォロワーの多い作家さんなら別かもしれないけれど、覇権ジャンル・CPの時よりも閲覧数はぐっと減る。

 

 pixiv小説界隈の流行変遷がちょうど女性向け流行ジャンルの変遷につながっている、ということをまとめたブログ記事が少し前に流れたけれど、とても参考になるしその通りだと思う。*4

dashimaki.hatenablog.jp

 

 アイドル桑山千雪だから手に取ってもらえる。コミュ中のラジオディレクターの指摘が最もだと思う。

ダメダメ桑山ちゃん やっぱりね、商品タイトルはまずわかりやすさ!

ダイレクトに魅力を伝えるものじゃなきゃさぁ 桑山千雪の手作りってとこに価値があるんだから

 商品名を「月へ出かけたキャラバンの鈴」にしたいと言った千雪さんに対する否定の台詞。

 最初に見た時はそんな切り捨てないでも……と思ったけど、pixiv小説のランキングを見ると、大半はタイトルでどういった内容かわかるものになっている。パッと見てどういった話かわからないと、クリックしようと思わないからだ。

 

 G.R.A.D桑山千雪編は、千雪さん(あるいは千雪さんをプロデュースしているP)視点で見ると、他人に助けを求められない厳しい現実を突きつけられた話なんだけど、pixiv小説界隈に触れたことがある女オタク視点で俯瞰すると至極当たり前の話をしている。

 商品名が分かりやすい方が取ってもらいやすいように、キャプションだってどういったあらすじ・(R-18作品ならば)プレイ内容が明記されている方がクリックしたくなる。

商品名「月へ出かけたキャラバンの鈴」作者:C.K

【キャプション】

素敵なファブリックを見つけたので作ってみました

月を目指して旅立った人たちが、暗い宇宙で迷ったり、心細くなったりした時

この鮮やかなボタニカル柄を見て、みずみずしく力強い地球の鼓動を思い出し

フチを飾る繊細なチロリアンテープの奥に 人々が紡いできた心の歴史、心の灯を見つけ出す

このまあるいフォルムの巾着は、まるで旅のラクダたちがつけた鈴のように

暗闇の旅の道しるべになる

――そんなストーリーをこめて

 素敵なポエムだとは思う……思うけど、じゃあこういうタイトル・キャプションの内容のpixiv小説をクリックするかと言われたら、しない。よく知らない人のポエムキャプションだけ見て本文を読もうとは思えない。

 ネットオークションの落札:1円は酷いと思うけど、閲覧者数:28人は正当だ。むしろ28回もクリックされたことが凄いよ……。

 

②何をもって自己満足とするか

 発表した場で色々な人に評価されたい、と思うなら以下の事を頑張るしかない、と思っている。

  • タイトル・タグ・キャプションで作品の要素を端的に説明
  • 流行のジャンル・CPで作品を発表する
  • 発表のペースを定期的に、短く行う

 あとはpixiv小説だと「ある程度文字数があること」か。*5

 難しいのは、上記のことを頑張ったからといって必ず一定の評価が得られるわけではない。多くの人にウケやすい要素を詰めても、人気の出るシチュエーションを書いたからといって、望むだけの閲覧数・ブクマ数が得られるわけじゃない。

 どうやったら人気が出るのか。最終的には運だと思ってる。

 

 G.R.A.Dの千雪さんにとってより厳しかったのは、「アイドル桑山千雪の手作り巾着」がオークションで高値で落札された=一度他人から高い評価を獲得してしまったところにある。

 最初から自分は大した評価をされていない人間、なら評価されてなくてもそこまで凹まなかっただろうけど、一度高い評価を得てしまうと大した評価をされてなかった時代には戻れない。

 

 冒頭の増田の話になるけれど、自分の作品を発表して満足できるかどうかは、他人の手が関わらない自己満足の基準を決めるしかない。作品を発表できたらそれで幸せ、定期的に発表して自分の作品一覧が増えたらそれで幸せ。

 閲覧数・ブクマ数・落札額といった目に見える基準が作品のすぐそばにあるから、自己満足の基準をそこに求めないでいられるのは相当難しい。

 けど、難しくてもメンタルを腐らせないためには、Pが言った通り自分の価値を自分で決めないといけないんだろうな。

 

③ただの桑山千雪はすごい

 うだうだ書いたけれど、ただの桑山千雪として評価されよう、と作品を出品しただけ千雪さんは凄い。

 ただの自分を評価してほしい、という気持ちは持っていても、実際に評価されようと作品を発表するまでの溝は広くて深い。

 結果として1円だったけど、評価されたいという欲望を実行に移した千雪さんの勇気は、評価されたい気持ちだけで留まってるよりもずっと価値があるものだと思う。

 「頭の中にあるうちは、いつだって、何だって、傑作なんだ」*6もんな。

*1:この後「薄桃色にこんがらがって」コミュを読んで千雪さんのG.R.A.Dの原点に立ち会いました。薄桃色、致命傷を負うシナリオでした。

*2:恒常pSSR3種所有・限定pSSRは未所持

*3:ここで小糸pSSRを天井したことを報告します

*4:でも黒バスで流行ったパロディを出すならセクピスパロには触れるところじゃないか? とは思った

*5:3000字以下のSS程度だと「内容がない」と思われてクリックしてもらえないらしい。今ランキング見たけど比較的少なくても4000字以上はあった

*6:朝井リョウ「何者」より