【BL漫画】マイ・ボーイ(吉池マスコ)感想 良作だけどHシーンに身の置き場がなかった理由
BL漫画だけどBLというより親の子離れ/子の親離れの話だと思う。
「私の恋人が死んだ――」
恋人・欣太の訃報を受け、葬儀へと向かったゲイの由起夫。
そこで欣太の幼い息子・響を引き取る決心をする。
時は過ぎ、18 歳となった響と暮らし、年下の恋人・英雄との 関係も順調で、幸せを感じる由起夫。しかし響は由起夫にある思いを抱えていて…?
正直表紙を見た時になるほど3Pか……と思った自分の心の穢れが浄化されるくらい清らかな良い話だった。お天道様の下でまっとうに生きる人たちの光を真正面から受けたので、良い話だった……としか言えない。
あえていうと、清らかで光にあふれすぎててHシーンをどう楽しめばいいのかわからなかった。
以下、感想とうだうだした自己分析です。相も変わらずネタバレ盛りだくさんです。
1.「マイ・ボーイ」のやさしさ
①人情味あふれる世界
吉池マスコは好きな作家で、新刊が出たら(全く合わない設定のものを除いて)優先的に購入している。
話が好きというわけでもないけど毎回何かいいんだよなあ、と思っていたけど、「マイ・ボーイ」を読んでようやくわかった気がする。
吉池マスコ作品のキャラは、シリアスでもバカエロコメでも、誰も彼もが人としての情にあふれていて、どうしようもないクズな側面があるのに、その一面だけ見てクズだと捨てきれない愛嬌がある。みんな計算や理屈じゃなく倫理と温かい感情で動いている。
根底に理屈じゃない思いやりがあるから、誰かが傷ついたら感情で助ける。仁義の世界だと思う。
「マイ・ボーイ」だと、響のために「英雄とは別れた」と嘘をつく由起夫に怒った王が顕著だと思う。
嘘だ!
(中略)
振られたなんてどうして嘘つくの? 由起夫さんが振ったんでしょ!? ヒビキのために
ヒビキだって気付いてるよ! 自分のために振ったんだって
そんな嘘よくないよ! ヒビキの事逆に傷つけるよ!
大事な人に嘘つかせたって! 自分のせいで!!
「嘘をつくことが正しくない」という正論をもって怒るのではなく、「嘘をついても相手が傷つくんだ」と相手の気持ち視点で怒る。
理屈で怒られると反発するところも、他人の感情を汲んで怒ってくるので毒気が抜かれる。
このシーン、響当人が怒ってたらこじれてたと思うので、王が代わりに怒ることが響-由起夫の関係的にも作品世界的にも正しかったんだろうな。
②子を思う親の話
表紙が3人で、響→由起夫なのは冒頭から提示されていたので、血はつながってないとはいえ親子でHしちゃう話になるんだろうか……と思った。
正直親子の近親相姦は苦手なのでどうしようと思っていたけど、杞憂だった。
というか、終始親として子である響を思う由起夫も、由起夫の意思を尊重し年長者として響に接する英雄も真っ当な大人すぎて、終わってみると悩める響の独り相撲だった。
なんでって 親だからよ
恋人と息子がいたら 息子の方を取るの
あんたは欣太から授かった大事な一人息子だもの
響が幼少期に由起夫の女装でいじめられていたのを踏まえてのこの言葉。
これが由起夫にとって決め台詞でもなく、スイーツを食べながら言える言葉なのがすごい。由起夫は血がつながってないだけで、立派な親だ。
2.Hシーンをどう見ればいいのかわからない
①身の置き場のない出歯亀感
「マイ・ボーイ」はBL漫画なので、当然Hシーンがある。英雄×由起夫だ。由起夫はこの漫画の受なのでかなりキレイめのオネエのキャラデザだ。
私はBLのHシーンは基本的にあからさまで品がない方が好きなので、吉池マスコのあけっぴろげなH描写は基本的に好きだ。
好きなんだけど、「マイ・ボーイ」のHシーンは正直どう見たらいいのかわからなかった。
苦手なプレイ描写があるとか、体格差が好みじゃないとかいうわけでは決してない。なのにHシーンが始まると見ていいのか悩む。
なんでHシーン見るのに悩むのかなあと再読して、この身の置き所のなさに気がついた。
英雄と由起夫は人として立派で落ち着きがあり、同棲前のカップルながら熟年夫婦のような雰囲気がある。さらに由起夫は響を立派に育て上げたシーンを見てきているから、正直受けというより母親に見える。
英雄も由起夫も「男」というより「親」なのだ。親同士のHだと思うと、出歯亀なんてしてすみませんでした、という気持ちになる。
別に子育てBLが(積極的に読もうとは思わないけれど)地雷というわけではない。子育てBLは何作か読んだことはあるけど、身の置き場がなくて困ったのは初めてだ。
英雄と由起夫は私にとっては立派すぎて、Hシーンがまぶしくて直視できなかったんだろう。
②似たような気持ちに襲われたことはあるか
正直、BL漫画でこんな気持ちになったのは初めてかもしれない……ので戸惑っている。
BL漫画のHシーンはそれ目当てに読むことは正直なくても、プレイの痛々しさやキツさとは別にメインカップルがまぶしすぎて直視できない、なんて気持ちになったのは初めてだ。
セクシャルな描写をしてるのに(画力とかシチュが萎えるとかいうのは抜きにして)全然セクシャルに見えない、という気持ちになったことなんてあったかなあ……と思いだしてみると、非BLだけど「ダンベル何キロ持てる?」がわりと近かった。
トレーニング描写の女の子の肌色絵はセクシャルを意識してると思うけど、正直トレーニングをしているジムの女性だなあとしか思えなかった。格好もジムのレッスンウェアなので、こういうストレッチあるよなあとかそういう気持ちにしかならなかった。
「ダンベル何キロ持てる?」はジムでトレーニングする話なので、その健康的な感じが好きだったなあ。
吉池マスコ作品で親の子離れ・子の親離れの話というと、「永遠のボーイフレンド」が似たようなシチュエーションの話だった。こっちは息子が男の恋人を連れてくるパターンか。
短編だけど、ゴツいオカマママのみちる姉さんの台詞がものすごくよかったなあ。