Yの悲喜劇

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腐女子/商業BL/読書/漫画/アニメ

【小説】腐女子寄りオタク視点でおすすめしたい(感想を聞きたい)一般文芸4選

  「○○的な意味でお勧めしたい小説・漫画」記事を1回書いてみたかったので、書きました。

 腐女子寄りオタクの視点で、オタクにお勧めしたい(そして読んでどう思ったか感想を聞きたい)一般文芸を4作です。一般文芸に絞ったので、ライトノベルライト文芸・近代&古典文学は抜いています。

 腐女子寄りオタクの視点でのおすすめですが、同性愛要素のある作品は(「恋」が一部あるだけで)特にありません。萌え的な意味のおすすめではなく、描かれるテーマがオタク的に刺さりそう、という観点でのおすすめです。

 

 

 

 

(紹介と言いつつ全力でネタバレしています)

 

 

 

 

1.恋(小池真理子) ――CP厨オタクにおすすめしたい解釈違いの物語 

恋 (新潮文庫)

恋 (新潮文庫)

 

連合赤軍浅間山荘事件を起こし、日本国中を震撼させた一九七二年冬。当時学生だった矢野布美子は、大学助教授の片瀬信太郎と妻の雛子の優雅で奔放な魅力に心奪われ、かれら二人との倒錯した恋にのめりこんでいた。だが幸福な三角関係も崩壊する時が訪れ、嫉妬と激情の果てに恐るべき事件が!? 

  直木賞受賞作。石原さとみ主演で2013年にドラマ化されました。

 主人公:矢野布美子が大学生時に、親しくしていた片瀬信太郎の妻・雛子の不倫相手を銃殺した。なぜ信太郎でも布美子でもなく不倫相手を殺したのかをめぐる恋愛サスペンスであり、男女BL百合全部好きなCP厨オタク視点で読み解くと、解釈違いで殺人を犯した女の話です。

 A:信太郎、B:雛子、C:布美子、D:勝也(雛子の不倫相手)でCP厨視点による話の整理をします。

<外野視点で見る事件の表面>

A×B前提、A×C・D×Bあり、最後にCがDを殺す

 →なんで殺した? になるんですよ。けれど布美子視点で語られる過去によって、以下の通り謎が解き明かされます。

<布美子視点で語られる事件の真相>

CはA×B原理主義者。ただA×C・B×Cもイケる。けどD×Bは絶対に許せないしD相手のBは解釈違い。

→Dを殺してこの世からD×Bを消滅させる。

 過激派CP原理主義者による解釈違いCP殺す話ですよこれ。

 「恋」という作品の凄いところは、過激派の布美子の視点で信太郎×雛子&布美子の世界がいかに素晴らしく美しいものかを濃密に描くことで、冷静になると布美子の思考がヤバいとしか言いようがない動機を、布美子にとってそれは必然で勝也は排除されるべき存在だ、と納得させられてしまう点だと思います。

 布美子が信太郎×雛子を拗らせすぎた話であって共感しようがない動機のはずなのに、読んでる最中はそうだな……信太郎×雛子を壊す勝也許せないよな……と思わされてしまうのが凄い。

 学生運動を知らない世代が読んだ感想なので、同世代の方が読んだらまた違う感想になるかもしれません。濃密で退廃的な官能小説としても、ホワイダニットサスペンスとしても読めますよ!

 

2.紙の月(角田光代)――推しに貢ぐオタクにおすすめしたいお金の話

紙の月 (ハルキ文庫)

紙の月 (ハルキ文庫)

  • 作者:角田 光代
  • 発売日: 2014/09/13
  • メディア: 文庫
 

わかば銀行から契約社員・梅澤梨花(41歳)が約1億円を横領した。梨花は発覚する前に、海外へ逃亡する。梨花は果たして逃げ切れるのか?―--自分にあまり興味を抱かない会社員の夫と安定した生活を送っていた、正義感の強い平凡な主婦。年下の大学生・光太と出会ったことから、金銭感覚と日常が少しずつ少しずつ歪んでいき、「私には、ほしいものは、みな手に入る」と思いはじめる。夫とつましい生活をしながら、一方光太とはホテルのスイートに連泊し、高級寿司店で食事をし、高価な買い物をし・・・・・・。そしてついには顧客のお金に手をつけてゆく。 

 2014年に原田知世主演でTVドラマ化、宮沢りえ主演で実写映画化された、角田光代の代表作の一つ。

 地味な契約社員が若いツバメにはまって破滅する話……と書くと恋愛小説に思えるんですが、この作品は恋愛小説以上にお金の話です。

 梨花は夫の庇護下で暮らしている時は必要以上に贅沢をしない普通の地味な主婦なんですが、光太が絡むと平気な顔してホテルのスイートを連日予約し、高級料理を毎日買って、ラグジュアリーハイブランドの洋服を買って着飾る。

 言い換えると、梨花光太という推しに貢ぐATM女なんです。

 対象が若いツバメなので不倫の話ね、と思うんですけど、この「紙の月」の光太を、アイドル・若手俳優・ソシャゲのキャラクターに置き換えると、まったくもって他人事じゃない話になる。

 ・アイドルの握手会・チェキ会に参加するためCDを多々買いした。

 ・若手俳優の舞台を全通(しかもなるべくいい席を取れるように計らって)した。

 ・推しキャラのSSRを引くために天井まで課金した。

 作中で描かれる梨花の行為は恋愛よりも上記のような推しへの課金の方と言った方が合ってると思う。

 角田光代の構成的にもページをめくって見る文面的にも緻密な書き方が、梨花の「夫との日常は節約する」→「光太=推しへの課金はストッパーをかけない」思考回路がすっと頭に入っていく。梨花の思考回路が私自身にもあるものだとわかっているから、来るとわかっている破滅にどきどきしつつもページをめくる手が止められない。

 「紙の月」は契約社員時代と、横領発覚して海外逃亡した現在をザッピングしながら展開していくのですが、海外逃亡した後、梨花が「光太の顔も思い出せない」と言っているのが一番怖かった。

  熱が覚めたら課金していた相手のことも忘れる、怖いけれどリアルだと思う。

 

3.てらさふ(朝倉かすみ)――承認欲求こじらせ×pixiv創作問題の話

てらさふ (文春文庫)

てらさふ (文春文庫)

 

自分がまがいものであることは承知の上で、スーパースターになって2010年代を疾走することを夢想する堂上弥子(どうのうえやこ)。
耳の中で鳴る音に連れられ、どこかに行きたいというきもちがつねにうねっていた鈴木笑顔瑠(すずきにこる=ニコ)。
北海道の小さな町で運命的に出会ったふたりの中学生は、それぞれ「ここではないどこか」に行くため、一緒に「仕事」で有名になることを決める。その方法は弥子が後ろに回り、ニコが前面に出るというもの。最初の仕事は読書感想文コンクールでの入選。弥子が書いてニコの名前で応募した感想文は見事文部科学大臣奨励賞を受賞、授賞式にはニコが出席した。
ふたつめの仕事は、史上最年少で芥川賞を受賞すること。ニコの曽祖父の遺品の中にあった小説を弥子がアレンジして応募した小説「あかるいよなか」は、芥川賞の登竜門となる文芸誌の新人賞を受賞する。作品はその後順当に芥川賞にノミネートされるが、それは「てらさふ」仕事を続けてきた、ふたりの終わりのはじまりだった――。
てらさふ――とは「自慢する」「みせびらかす」こと。「てらさふ」弥子とニコがたどり着いた場所とは? 女の子の夢と自意識を描きつくした、朝倉かすみの野心作。

 あらすじの時点でヤバヤバですが、実際に読むともっと痛さといたたまれなさでガシガシ精神を削られる作品。

 ページ開いた瞬間から始まる弥子のあたし悟っちゃってます的な自意識過剰モノローグの時点ですでに自分の若き時代を思い出してグサグサ刺してくるのですが、「あかるいよなか」をパク……ではなく一部アレンジして投稿してからはもうぞわぞわする痛さと怖さでページをめくる手が止められなかったです。

 定期的に回ってくるPixiv関連の迷惑DMツイートシリーズに、「私、周囲に○○さんは実は自分だって言ってるんですけど、○○さんが私の好きじゃないCPの話をするので困っています。私の好きなCPの話だけしてください」という迷惑キッズのネタがあるんですが(類似例を過去数回TLで見た)、弥子とニコの行為はほぼそれに近い……いやそれより悪質なものです。

 この作品で一番怖いのは、弥子とニコの行為それ自体よりも、弥子・ニコともに罪の意識が全くないこと。ニコは特に弥子はアレンジしてるから、私の創作も入ってるから、という言い訳で悪いことだと自認しないまま自分の承認欲求の話をし続けるので、読んでるこっちからしたらいやそういうことじゃなくない!?と思うんですよ。けど弥子は反省しない。弥子なので。

 本家のつぶやきをニコじゃなくて弥子が聞いていたらどうだったか、とは思いますが、たぶんその後の展開に変化はないと思います。ニコは良くも悪くも何も考えていない子だったけど、弥子は何があっても自分の正しさを曲げない子なので。

 Pixiv黎明~定着期くらいにこういったテーマの作品が描かれたことが凄いなあと思いつつ、ラストはため息しか出ない恐ろしさです。思い出すだけで頭抱える。

 

4.何者(朝井リョウ)――根拠のない俺はできる感ぶった斬りマウンティング話

何者 (新潮文庫)

何者 (新潮文庫)

 

就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。 

  作者が歴代2位の若さで直木賞を受賞した作品。佐藤健主演で2016年に実写映画化もされました。

 SNS時代の就活仲間同士の連帯感とマウンティングの話で、痛くないわけがないよねという現実をありのまま描いていて、就活に苦労した人間としてぶつけられる言葉の数々が大ダメージです。

 社会人になってそこそこ経ってから読んだので、なぜこの人たちが内定をもらえないのか、もらえた子ともらえない子では何が違うのかが、名言はされないけどはっきり伝わるのが痛い。そして内定をもらえた子は「何者」になれたので「何者」になれない人たちをばっさりぶった斬っていくのが大変厳しい。

 オタク的に一番致命傷なのは、クリエイターになりたいと公言しながら特に作品を発表しない隆良に対する、内定をもらった瑞月と、達観系の拓人の言葉。

隆良君は、ずーっと、自分がいまやっていることの過程を、みんなに知ってもらおうとしてるよね。そういうことをいつも言ってる。

(中略)

十点でも二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから。

(中略)

頭の中にあるうちは、いつだって、何だって、傑作なんだよな。

お前はずっと、その中から出られないんだよ。

 打ってるだけで刺さりすぎてつらい……。

 朝井リョウは他にも「武道館」がハロプロ好きの想いを昇華させたアイドルの虚像と実像の物語なので、そちらもお勧めです。