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【BL漫画】新庄くんと笹原くん(腰乃) 長文感想

 よろめき番長の感想記事を書いた時にふと読み返したくなって再読した。ら、めちゃめちゃ面白かった。

新庄くんと笹原くん1 (マーブルコミックス)

新庄くんと笹原くん1 (マーブルコミックス)

  • 作者:腰乃
  • 発売日: 2013/12/25
  • メディア: コミック
 

  2巻完結で1巻と2巻の間が3年半くらい空いたので、初読時は待たされた感慨の方が強かった。再読した今の方がニュートラルに2人のやり取りを見れた気がする。というか、どっちが攻めでどっちが受けかすら忘れていたのでほぼ初読に近い状態でした……。

 スピンオフ元の「鮫島くんと笹原くん」も面白いけど、個人的には初めて×初めて同士の「新庄くんと笹原くん」の方が悶え転がる度合いが高くて好き。

燃えるような恋をしろ。

大声だしてのたうち回るような、恥ずかしくて死んじゃいたいような、恋をするんだよ。

 男はつらいよの寅さんの台詞。これに収束するような、のたうち回る恋の話だったと思う。

 

 (以下ネタバレ感想)

 

 

 「鮫島くんと笹原くん」の鮫島くんも、「新庄くんと笹原くん」の真希ちゃんもどっちもコミュニケーション能力が低い人の恋愛の話だったけど、鮫島くんと真希ちゃんではタイプが違う。

 鮫島くんは思い込み型の消極的非コミュだったけど、真希ちゃんはさらに排他的人格を併せ持っている。

こんな風にテンション上げ下げして 疲れないか?

俺なんかの言葉ひとつにじったんばったんして

恋愛ってなんてみっともない

 冒頭の笹原くんのモノローグ。鮫島くんは笹原兄に告白したところから物語が始まっているのに対して、真希ちゃんはそもそも恋愛に対して否定的だ。

 なぜ真希ちゃんは恋愛に対して、ひいては人間関係に対していちいち否定的なのか。デリカシーのない笹原兄の影響もあるかもしれないが、突き詰めると真希ちゃんが人間を知らないからに尽きる。

 知らないことは怖いから。酸っぱい葡萄のようにろくでもないものと決めつける。

 

 真希ちゃんがとんでもないコミュ障だとは思わない。

 私も同じオタクで同じように思っていることもあるし、相手の新庄くんだって、自分の知らないことについて否定から入るシーンがある。真希ちゃんのラノベを取り上げて読むシーンがまさにそれだ。

そういやさー 俺、真希ちゃんが読んでる小説とか

どこがいいのかわかんねーって言っちまったけど

あれアニメで観たら面白かったわ

 1巻中盤の書き下ろし4コマより。

 知らないものを否定するのは簡単だ。けれど知らないものを見る・聞く・触れ合う等の過程をもって知るのは、個々のハードルの高低差はあれど冒険行為だと思う。

 

 「新庄くんと笹原くん」は知らない同級生のあれこれを知って恋に落ちる話だ。

 顔なじみからの恋愛以外のBLは大体そうだろう、と言われそうだけど、腰乃作品の特徴の一つとして膨大な文字量がある。少女漫画由来のBL漫画比ではなく、比較的文字量の多いだろう青年漫画と比べても多い方だと思う。

 膨大な文字量に支えられて、腰乃作品のメイン登場人物は解像度が高い。

 だから、新庄くんと真希ちゃんの心情を余すところなく知ることができる。

  新庄くんと真希ちゃんが、さまざまなやり取りを経てよく知らない同級生→恋の相談相手→友達→恋愛対象に変わっていくように、私視点でも読んでいく中で真希ちゃん・新庄くんのことが、

 オタクの笹原弟・その同級生(チャラ目)

 →臆病だから攻撃的になるけど初めての恋にどうしたらいいかわからなくなっている受・チャラく見えるけど一途で余裕なんて常にない攻め

 に変わる。

 よく知らない相手の恋愛はどうでもよくても、よく知ってる人たちの恋愛は頑張れ頑張れと応援したくなる。

 2人が何を考え、何に迷い、なぜスマートに事を進められないのかわかるから、

 友達になれた・ラップキスをした・お互いの身体を触りあった・恋人同士になった・デートをした・初Hをした・その後裸で抱き合った、

 という展開のいちいちに読んでるこちらもどぎまぎし、初H後の真希ちゃんよろしく悶え転がってしまう。

 恋愛の上手いやり方なんて知らないから、一つ進めるたびに身体ごと全力でぶつかりあっていくしかない七転八倒ぶり。新庄くんも真希ちゃんも一生懸命だからめちゃめちゃかわいい。

恋なんかしなくても生きていけるから大丈夫って思って

自分には関係ないって見ないふりしてきたのに

どうすんだよこれ おま……っお前のこと好きになっちまって

今俺は恋なんかしたから死にそうだわ……ッ

  恋なんかしたから身体中ざわざわして落ち着かなくて、けれど知ったからには手放せない喜びがある。

 

 本作は「鮫島くんと笹原くん」のスピンオフなので鮫島くんと笹原兄のその後/真希ちゃん視点の鮫島くん・笹原兄についてのことも描かれていて、そこも楽しい。

 「鮫島くんと笹原くん」だと鮫島くんの自己完結ヘタレっぷりがフォーカスされてたから気にならなかったけど、真希ちゃん視点で見ると笹原兄の神経の図太さはすごいな……。

 鮫島くんが繊細過ぎるのかと思ったけど、「俺を好きになってくれる人が好き」を地で行く笹原兄が相手だから上手くいったんだな、としみじみした。

 

 

 「鮫島くんと笹原くん」のスピンオフだけど、未読でも充分面白いと思います(もちろん既読だったらもっと面白い)

 合う合わないはあると思いますが、すごい文字量なので、読みごたえは抜群だと思います。