Yの悲喜劇

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【アニメ】虚構推理 原作未読者の感想

 「こいものがたり」(田倉トヲル)の感想で、「行動基準の異なる悪役を説得するには、悪役の倫理に則ってその行動を否定しなければならない」ということを書いたけれど、そういえばこんな話を最近何かで見たなと思った。

 アニメ「虚構推理」だ。

虚構推理 第1巻(Blu-ray)

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  • 発売日: 2020/03/25
  • メディア: Blu-ray
 

 

 原作未読。1話30分で終わるアニメで短編ミステリはあんまり向いていないなあと他作品を見ていて感じたところに、長尺使って長編ミステリ1巻やるアニメが出てきた。

 毎週面白く見ていたし、原作未読の上での不満もあった。

 TVアニメの制約がある以上どうやっても解決できそうにない不満なので、「原作を読んだ方が絶対いいんだな」というのがアニメを見た上での結論です。

 

 以下、長文で面白かったところと原作未読の上での不満点を語っています。ネタバレあり。

 

 

 1.新機軸のミステリ

 「虚構推理」は多重解決ミステリだ。もしかしたらアニメ化されてない話は違うのかもしれないけれど、アニメで放送された分は多重解決ミステリだった。

 先日、かの有名な「毒入りチョコレート事件」を読んだ。

  「毒入りチョコレート事件」は多重解決ものの元祖……だと思う。

 複数の探偵役がそれぞれの方法で推理で全く異なる犯人を提示し、最終的に真相がどれなのか確定しない。最後に提示された推理が順番的に真相に思えるけれど、別にそれが真相だと作中で言われたわけではない。

 限定条件が足りなければナイフの切り方次第でいくらでも違う推理ができてしまうし、登場人物全員が納得しないと真相は確定しない。いわゆるアンチ・ミステリだ。

 「毒入りチョコレート事件」がミステリに与えた影響は多大だけれど、作者の意図はアンチ・ミステリだったと思う。

 

 「毒入りチョコレート事件」に代表されるように、多重解決ものの穴は「どれが真相なのかが分からない」「作中で真相だと言われた推理よりも否定された推理の方が魅力的」になりがちなところだ。

 色々な推理が出てくるから、自分の気に入った推理を真相だと思え、が多重解決ものを楽しむコツなのかもしれないな……と考えている。

 

 「虚構推理」はこの多重解決ものの問題にすこぶる自覚的だ。

 「どれが真相なのか分からない」問題には、「大して面白くない事実」を前提に「事実よりも魅力的な嘘を披露する」こと。

 「作中で真相だと言われた推理よりも否定された推理の方が魅力的」な問題には、「どの推理も虚構だからどれが魅力的でも正解である」こと。

 

 「虚構推理」の鋼人七瀬回は、アイドルの事故死というつまらない事実を土台に、化けて出てくるアイドルという面白そうな噂によって招かれるトラブルを、それ以上に面白い虚構をもってトラブルを潰す。

 トラブルを招いた元凶は対立する六花かもしれないが、噂を広げ事態を大きくしたのはネットの住民をはじめとした「顔の見えない匿名多数」=群衆だ。

 群衆は真実は何かではなく、七瀬の死は何が面白いかを判定基準にしている。

 だから、判定役である群衆に訴えトラブルを潰すには真実ではなく、ある程度の根拠を元に今の噂よりも魅力的な虚構を提示しなければならない。

 

 「怪異」というファンタジー要素を持ってきて、の噂によって暴れる怪異を鎮めるために、怪異よりも魅力的な虚構を提示する。

 「虚構推理」のやっていることは、京極堂シリーズと同じく「憑き物落とし」だ。だいぶ現代アレンジされているけれど。

 「スパイラル」のオチにもびっくりしたけど、よくこんなこと考え付くなあ。発想の飛躍が凄い。

 

 多重解決ミステリとしての「虚構推理」のいいところは、前半の推理よりも後半に提示される推理の方がちゃんと魅力的に見えることだ。

 事実や六花の提示する嘘よりも魅力的な虚構を重ねることによって群衆を引き込むことが目的なので、冒頭に示される謎よりも後半に提示される謎の方がより面白くないと展開に説得力がない。

 「虚構推理」にとって何が真相かを決めるのは群衆だ。群衆と同じように後半の謎の方を魅力的に思った私もまた群衆の一人になっている。

 全部岩永琴子の掌の上でいいように転がされているのが気持ちいい。

 

2.TVアニメとしての不満点

 TVアニメとしての「虚構推理」は作画もきれいだし話運びもよかったけど、CM抜いて1話22分程度という制約がある。

 そのため、多重解決のうち1つ推理を提示し、「以下次回!」と引く展開が終盤は続く。

 

 多重解決ものは複数の推理を畳みかけてくるからより楽しい。なので、1つ謎を提示して次は翌週、とされると1週間のクールダウン期間ができてしまう。

 私はため込まない限りはTVアニメはなるべく毎週1話ずつ見るようにしているので、1話ごとにクールダウンしてしまってそこはあまり楽しめなかった。

 

 TVアニメとしての不満点を挙げたけれど、これは私の見方が悪くて、多分一気見推奨のアニメなんだと思う。それでも解決編で1時間半以上尺を使っているのはちょっと長いな、と思う。

 小説は自分のペースで話を読み進められるけれど、アニメは制作側のペースにこちらが乗せられる形になるので、そのペースが心地よくないと楽しみきれない。

 でも解決編に端折っていい箇所はなかったと思うから、こればかりはちょっとどうにもならない話なのかなあ。

 

 

 なんやかんや面白かったので原作も読みたい。城平京は「名探偵に薔薇を」を読んだけど、あっちも面白かったな。

虚構推理 (講談社タイガ)

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  コミカライズも気になる。というかコミカライズと原作がほぼ同ペースらしい。