Yの悲喜劇

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【漫画】赤ちゃんと僕 感想

 マンガParkで「赤ちゃんと僕」が全巻無料公開されている。~5/8まで。

manga-park.com

  いい機会なので全巻読みました。こちらは初読み。

 泣けるよ感動するよ名作だよという評判はしばしば聞いていたけど、泣ける話を読むには重い腰を上げる必要があってなかなか読めなかったので……。

 子どもが小さい子を育てる話だ……と聞いていたので終始しんどい話なのかなあと勝手に思っていたけど、基本はホームコメディでそこまで精神的に重くなく。

 全18巻(文庫版だと全10巻)、めちゃめちゃ良い作品だった。

 

 

 以下、ネタバレ込みで長文感想です。

 

 

1.ゴンちゃんについて

 「赤ちゃんと僕」で一番好きなのは一加ちゃん(おしゃまでかわいい)だけど、一番凄いなと思ったのはゴンちゃん=後藤正くん。

 少女漫画だからかホームコメディだからか、「赤ちゃんと僕」の登場人物は多かれ少なかれみんな悩みを持ちつつ日々を暮らしている。

 友達関係、好きな人、子育て、夢……突き詰めるとどれも人間関係の話だけど、他人にとっては些細な一言でも当人にとっては大きく心を揺さぶられる言葉だったり、例えば主人公の拓也にとっては立派な大人のお父さんも、会社では完璧じゃなかったり。

 ゴンちゃんの凄いなと思うところは、自身の評価基準を自分の中に持っていて他人にゆだねないところだ。

 例えば、ゴンちゃんは決してイケメンではない。相対的にも絶対的にもイケメンじゃない。けれどもゴンちゃんは自分は格好いいと考え、他人にブサイク扱いされても気にしない(バレンタインの話とかちょっとは気にしつつもそれを引きずらない)

 ゴンちゃんは自分=格好いいという確固たる評価基準があって、他人の評価を気にしないからだ。自分が格好いいということを自分がわかっているので、他人に評価されたい、という承認欲求もない。

 大人でも他人の些細な評価に不安になることが事細かに描かれている作品の中だからこそ、自分の評価を自分で決めるゴンちゃんの姿勢は格好いいし、凄いなと思う。

 

2.他の登場人物について

 主人公の拓也は男の子であると同時に母親なので、恋愛に鈍感なのはすごくわかる。子育ての方が大事だし忙しいもんな……。

 智子ちゃんも好きだけど実際お隣さんにいたらちょっと困る。けど智子ちゃんくらいおおらかで強い人の方が子育てするのにへこたれなくていいんだなとも思った。

 後藤祖母と玉舘祖母の関係がすごくいい。遺伝的に好きになれないから会うたびに口喧嘩するけど元気がないと張り合いがない2人。老婆喧嘩百合……。

 全体を通して、(拓也にとってその時は敵だったとしても)完全な悪人はいなくて、さらにどんなに嫌な奴でも引っ越しができない以上関係をすっぱり切れないから、いかに他人を理解し、うまくやってくのが大事なのかを丁寧に描いてるのがすごくいい作品だと思うんだけど、熊出だけはメインエピ後いやがらせ役としてずるずる出し続けたのは正直どうかなあと思った。

 

3.特に好きなエピソード

 一番好きなエピソードは老犬コロの話。どんな人でも悪役と切り捨てられない「赤ちゃんと僕」のいいところが詰まってると思う。拓也の言うことも何も間違ってないんだけど、子どもと大人の違いがきれいに出てると思った。

でも大人を責めないでね
現実を見るのって案外残酷なのよ

 たぶん学生の頃に読んでたら拓也の方に感情移入してたと思うけど、大人なのでこの台詞が沁みる。

 あとは修学旅行でクラスメイト女の子3人が仲たがいした話が、友達だからこそ割り切れないもやもやの話でよかった。どうでもいい他人なら見過ごせるところが、友達だからこそ気になって仕方がない。どうでもよくない人だから気になってしまう感情が、すごく繊細でいいなと思った。

 「赤ちゃんと僕」のテーマとしては、宮前くんの話が一番〆にいいなと思った。人から可哀そうと言われても、拓也にとっては実がいるから幸せなのだ。廣野先生の再登場もあって、先入観のいやらしさと、悩みを抱え込んではいけない、という普遍的なメッセージがストレートに伝わる。

 

 

 こんな機会だから読めた作品だけど、読めてよかったです。終身栄誉積読状態になってる「ニューヨーク・ニューヨーク」も読まないと。

赤ちゃんと僕 1 (白泉社文庫)

赤ちゃんと僕 1 (白泉社文庫)