Yの悲喜劇

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【漫画】金田一少年の事件簿全作レビュー(Caseシリーズまで)

 

 

  少し前に「私を構成する漫画5冊」のタグがTwitterでトレンドした時に、自分だと何かなあと考えて真っ先に思い浮かんだのが金田一でした。
 ということで金田一少年の事件簿です。子どもの頃にちゃんと追ってたFILE・caseシリーズまでの長編事件感想です。

 

 

金田一少年の事件簿 各事件レビュー


1.オペラ座館殺人事件

 金田一最初の事件。
 この事件でオペラ座の怪人のあらすじを知りました。
 最初の事件なので派手な死体に対してトリックは小品。
 「いやあまさかアイツがあんなことになっちゃうなんてな~」的な代名詞で語る金田一構文を作中最初に言ったのは金田一本人。読み返して一番びっくりしたし一番笑った。

 

2.異人館村殺人事件

 トリックが「占星術殺人事件」(島田荘司)のパクリ、で有名な事件。
 島田荘司が激怒したためドラマはお蔵入りし犯人たちの事件簿でも取り上げられなかったのですが、トリックの(40年近く前・異人館村連載時点でも20年近く前とは思えないくらい)奇想ぶりを思ったらまあさもありなん。
 いかにもな道具立て・凄惨な殺人事件から人情劇に結集する大筋が確立されたのはこの話からで、初事件のオペラ座よりも泣かせるオチへの持っていき方がスムーズ。ラストに金田一が見た夢はベタだと思うけど好き。

 

3.雪夜叉伝説殺人事件

 一世一代の大トリック。画面のインパクトとスケールの大きさは金田一の事件の中でも随一では。個人的にはトリックはちまちましたものよりも大技一発系の方が好みなので、その点では好きな事件です。
 最初あからさまに嫌な奴として登場したキャラが準レギュラー化すると態度が軟化するのは金田一の特徴だけど、明智警視はその中では比較的段階(異人館ホテルでの解決の舞台設え役→金田一少年の殺人での金田一サポート役)を踏んでいたと思う。
 ドラマ版は犯人役の方の熱演とこのトリックを実写で忠実に再現した点において特におススメ。

 

4.学園七不思議殺人事件

 傑作。
 学園の七不思議!調べると殺される!という定番ホラーテーマ&スリリングな展開の先に行き着く真相が、「戦後人体実験で死んだ人の骨が埋まってる」という七不思議そのものよりはるかに奇怪でとんでもない話。なぜ閉校にならないんだろう。
 七不思議の真相のスケールの大きさに対して犯人が動機も本性も小物丸出しなのも哀れさを強調してていいですね。事件まるっと突発的な動機とその場しのぎの小細工でやりくりしているので、犯人たちの事件簿で一番面白いエピソードだと思います。
 読み返すと美雪が殺意をもって犯人に狙われて死にそうになってるのは第一期(FILE・Caseシリーズ)だとこの話だけ。蘭姉ちゃんとは違う……(コナンは対組織犯罪も取り扱うけど金田一は探偵vs犯人という個人vs個人の図式をほぼ崩さないので)

 

5.秘宝島殺人事件

 人生で初めて出会った男の娘。多分鎌足(るろうに剣心)より先に出会ったはず。
 バラバラ殺人の陰惨な絵面以上に、「トイレの便座が上がっていたから」で女装を見抜く金田一の目が鋭すぎて怖い。流石にこれを犯人のミス扱いするのは酷では。
 性善説を信じる金田一のキャラが確立されたのはこの事件からかなあと思う。お前が言うのかとは思うけど洞窟から脱出するラストは後味悪くなくていいですね。

 

6.悲恋湖伝説殺人事件

 S・KスベコロマンによるS(すごく釈然としない)・K(感動オチ)。顔をミンチにされた死体・クローズドサークルでの無差別殺人の真相は定番を丁寧になぞってるとは思うけど、全員が水恐怖症であることに賭けて殺人計画を組み立ててるのはちょっとさすがに無理がないか。いやまあS・Kスベコロマンの前には野暮な突っ込みですが。
 「カルネアデスの板」の話を知ったのもこの事件からだったのを思い出しました。一時期いろんな創作で見ました。

 

7.異人館ホテル殺人事件

 金田一少年の復讐。
 佐木がほぼ巻き添えで死んだのでむべなるかなとは思うけどラストの犯人との対面シーンでの金田一は鬼の一言。金田一で出てくるあらゆる復讐劇の中でも相当スマートにやってのけているので、金田一はこの頭脳で犯人側に回ったら心底恐ろしいと思うわけですよ。
 事件の最中に事件の真相とは何の関係もない謎を持ち出してラストシーンに結び付ける手法は直後の首吊り学園と同じだけど、結末の印象はあっちと正反対なのも面白くていいですね。
 金田一の中ではこの事件と飛騨からくり屋敷が後味の悪い事件2強じゃないかなあと思います。

 

8.首吊り学園殺人事件

 傑作。
 犯行計画が大胆で隙なし、被害者は救いようのない邪悪(これ以前はイニシャルがSKだったりとか壁のポスターを剥がされそうになったからとかもっとどうしようもない理由で殺されてたんですよ!)、「日に日に髪が伸びる女の絵」とかいうおどろおどろしい小道具が〆の救済に回収されていく、と金田一節てんこ盛りで素晴らしい。金田一でベストエピソードは何かと聞かれたら私はこの事件を挙げます。
 ミスらしいミスのない完全犯罪が被害者の癖・犯人と被害者の習慣の差異で崩れていくのも現代ミステリの流行に通じていていいですね。他の事件よりも犯人を示すヒントは露骨だけど犯人が誰かわからないとなんのトリックが使われたか見当もつかない代物なので是非もなし。金田一が唯一推理ミスをする話だけど途中で明かされるトリックもそのまま事件の大オチに使えるんじゃないかというものなので金田一の落ち度という感じもなく、ゆえに最強犯人であるわけですね。

 

9.飛騨からくり屋敷殺人事件

 善良な青年が「なぜ」殺されなければならなかったのか、から犯人を辿っていく、たぶん金田一では数少ないホワイダニット
 メイントリックが地味な分ホワイダニットによる構図の反転とそこからくる愛憎こもごもの悲劇が際立ってていいです。名家の跡取り騒動での連続殺人という古式ゆかしいモチーフを裏切らない終盤の犯人の迫真の顔芸はその悲愴ぶりが強調されて大変よいですよ。
 征丸が殺されるいわれは全くないと思いますが犯人が殺した理由は学生時代にいじめられたトラウマの発露と思うとまあ……そこまで責めることはできないかな……。征丸が殺されていい理由は皆無ですが。

 

10.金田一少年の殺人

 名探偵が犯人として疑われる!推理しながらの逃走劇!行く先々で惨劇が!と冒険活劇要素が強い事件。少年漫画で冒険活劇×ミステリはそりゃ面白いですわ。
 異人館ホテルを経て嫌味な態度ながら金田一へ的確なサポートをする明智警視のキャラが確立した事件であり、いつきさんロリコン説が確立した事件。読み返すと双子の幼少期にやさしくしたエピソードが挿入されていたりと記憶よりも丁寧にロリコン匂わせしててびっくりしました。ただ瑞穂ちゃんを引き取っただけじゃなかった。
 逃走中の金田一が美雪にポケベルでハッピーバースデーのメッセージを送るシーンが印象的。ポケベル。時代を感じずにはいられない。
 この事件に限った話ではないですが、犯人の悲惨な背景を演出するために難病の娘を持ち出すのはあんまり好みではない。

 

11.タロット山荘殺人事件

 玲香ちゃん再登場(再読したら思ったより登場間隔が開いていてびっくりしました)出てくるたびに悲惨な過去がプラスされていく玲香ちゃんは二次元アイドルの中でもトップクラスの不幸アイドルだと思う。そんな偶然に偶然が重なる事態があるのか、という事件だけど、玲香ちゃんが見た夢の話はとても良いです。
 玲香ちゃんは魅力的だと思うけれど、メイントリックがちまちましていたり解決編がほぼシラを切りとおせるレベルの状況証拠ばかりだったりとあまり好みの事件ではない。
 一番面白いのは雪山に放置された金田一の生還劇で、アクロバティックに戻ってくる。知恵がすっごい。

 

12.蝋人形城殺人事件

 みんなのトラウマ:アイアンメイデン。超絶怖い。この拷問器具で死にたくないでしょ……。
 おどろおどろしい小道具を全部洋もので取り揃えました!さらに今回は名探偵勢ぞろいで連続殺人事件です!豪華な舞台セットにふさわしいトリックが用意されてて満腹。最後に三億円事件を動機に組み込む意欲旺盛ぶりに満足です。
 明智の寝顔が美人すぎる。ラストシーンの明智〆もよくて、そりゃ人気出ますわ……。
あと釈然としないことも多々ある金田一→犯人への説教が「犯罪者の仲間割れ」という事件背景によってめっちゃ説得力あるものになってるのがこの事件のいいところだと思います。この金田一はド正論。

 

13.怪盗紳士の殺人

 金田一は凄惨な事件の末に犯人の激重動機を描くことで最終的に切なく泣ける話に仕立てる作風で、多分それが一番良く現れた事件。和泉さくらという金田一に想いを寄せる薄幸&健気系ヒロインを魅力的に描いたという一点だけで最高の話だと思います。
 この世はクソだ!みたいな背景書き込んで最後にそれでも希望の光はゼロではないよ的なラストシーンはとても良いです。
ドラマ版の改変はどうかと思う点も多々あるんだけど、さくらを抱えてラベンダー畑に行くラストは原作のさくらの最期を思うと泣ける。
 怪盗紳士はコミカル&チャーミングな敵役で結構好きなんですけど、コミカルすぎて長編ではあと錬金術くらいしか出番がない……いや出張られても困るか。

 

14.墓場島殺人事件

 シリーズ初の2人犯人。だいたいの問題が「犯人が2人いるから」で解決する事件なので、これ本誌連載時の推理クイズどうしてたの……? 
 事件パートではただの嫌な奴にしか見えなかったのに、動機含めて行動を辿ると犯人がめちゃめちゃ魅力的に映るのは本当に金田一マジックだと思う。生き残った片方が動機を語る形にすることで、動機を語らず死ぬ犯人を描けたのは2人犯人ならではの強みですね。
 舞台が無人島なのでサバイバルみが強いのもいいところ。友人に指摘されて気づいたけどサバゲーというゲームを知ったのはこの事件から。あと死体がグロい。爆破テロ死体はトラウマですよ!

 

15.魔術列車殺人事件

 高遠初登場。いかにもな冴えない青年が本性バレすると眼鏡を外して不敵な笑みを!って書くと結構ベタなヒール役ですね高遠。大掛かりなトリックと殺人計画に美学を持ち込む姿勢はいいけど高遠自体がミスをやらかしているのはどうかと思う。
 性善説で生きる金田一に対して性悪説を根幹に据える高遠という対比がこの後しばしば出てくるけど今回のラストはその象徴。ちゃんとマジックを検証していたら避けられた炎だったと思うと哀れ左近寺。

 

16.黒死蝶殺人事件

 トリックから逆算して話を作り上げた事件らしく、トリックを効果的に表現するために解決編が一部フルカラーで掲載された。しかも単行本もフルカラーのまま。売れている漫画は予算が違う……!
 トリックから作られた話なので幼女が死に最後に凄く遠回りな復讐劇が明かされる。このトリックと話を両立させるための復讐劇なんだと思いますけど、対象を殺さない復讐劇だったら異人館ホテルの金田一の方がよっぽど効果的なわけで、ちょっとこの復讐はかけた手間を思うと反応に困る。
 蝶が夜空を舞うラストシーンは幻想的でいいですね。その後の結婚式もいいんですけど導入があれなのでちょっともやもやする。

 

17.仏蘭西銀貨殺人事件

 半倒叙もの。
 タロット山荘でも思ったけど金田一倒叙ものはコミカルに振り切れてる短編は面白いけど、シリアストーンを貫く長編だと金田一の一般人らしい善良さが邪魔。見た目は子どもな探偵があざとさ全開で犯人を追い詰めていく構図がいいコナンとか田村正和のねちねちした演技がハマってる古畑と比べるといまいちカタルシスがない。
 同じ半倒叙路線でも黒幕が隙の無い強敵だったタロット山荘と比べても、精神的双子に全部ベッドした計画が無茶すぎて厳しいんですよね。犯人の動機もちょっとどうかと思う。
 正直事件とは関係のない「テーブルクロスと割ったグラスの破片で即席ウェディングドレス作成」が一番面白かったかなあ。見た目にも華やかだし。

 

18.魔神遺跡殺人事件

 事件そのものは地味だと思うけど宗像さつき先輩というちょっとどころでなくエッチな先輩と港屋のご主人という異常すぎる事故死のインパクトが強烈。空から降ってきた鐘でデスタムーア死体になるのは天文学的確率じゃないでしょうか。
 真冬に冷たい献立ばかり、をキーにトリックを見破る金田一の目が厳しすぎると同時に時代を感じる。今だったら作り置き&電子レンジでコンロを使わずともあたたかい料理が出せるので。それとこの糸口で犯人とトリック両方絞り込める話なのでダイイングメッセージはいらなかったのでは。
 犯人たちの事件簿で金田一が剛にも松潤にも亀梨和也にも山田君にも見えるネタが秀逸。FILEシリーズで唯一ドラマ化されてないからできる荒業ですよ。

 

19.速水玲香誘拐殺人事件

 身代金運び人になった金田一への無茶ぶりの数々がむちゃくちゃすぎて逆に真相がわかりやすくなってる事件。身代金が出たこと自体がトラブルなんだけど、この無茶ぶりは高遠の趣味では……? 橋に細工しただけではダメだったのか……? お前は計画の完璧さよりも金田一をいたぶる趣味を優先したのでは……?
 トリックは東野圭吾の超有名作と発想が同一(決してパクリではない)。トリック自体の出来もいいし見破るきっかけが「ヒゲを剃り忘れたから」はいいですね。
 出るたびに衝撃の過去が出てくる玲香ちゃん。今回の事件で大女優を母に持ち、幼少期に実父を殺され誘拐犯に育てられたことが判明。並べるだけでわかる壮絶な半生ですよこれ。

 

20.魔犬の森の殺人

 千家……。
 準レギュラーが犯人なだけあって被害者が作中トップクラスの屑。行動もわかりやすく屑。千家……。
 狂犬病の犬に囲まれて出られない、という超変則的クローズドサークルだったりトリックがそれは漫画向きじゃなさすぎるとかあるけど千家犯人のインパクトの前には全部消える。千家……。
 しかし千家が犯人だと思うと導入がいくらなんでも無茶すぎる。犯人たちの事件簿で突っ込まれたけど正直コンプラどころじゃなくないですか?

 

21.銀幕の殺人鬼

 コナンみたいなトリック!(私の推理漫画としての名探偵コナンについての偏見の表れ)そしてこういうトリックはコナンの方が巧いし面白いと思います。
 caseシリーズは1巻or2巻完結縛りなので1巻だと出せるキャラも事件も縛られるのはわかるのですが、死体を増やした結果最後の容疑者候補3人は正直少ない。
 ドラマとアニメで脚色が全く違う事件でもあり、黒河先輩の背中の火傷にフォーカスしたのがアニメ版で映研と遊佐兄の絆を軸にしたのがドラマ版。原作が1巻完結で淡白なのでどっちの味付けもアリだなと思いました。

 

22.天草財宝伝説殺人事件

 天草財宝を探す!という導入のわりにいつきさんと元カノのラブコメに割かれているせいかびっくりするほど地味。そして地味にCaseシリーズ最強犯人。なんだこいつ……まったくミスをしてない……。トリックも(偶然性はあれど)見破れないものなので侮れないですね。子どもが噂で殺人鬼の存在を広めていく様子は地味にかなり怖い。
 まーた被害者に被がないから幼女を動機に絡める……とは思うけど犯人の行いと最後の救済がぱっきり分かれているので、金田一少年の殺人よりあんまり気にならないです。
 あの暗号で天草財宝の在処を解く金田一が落第寸前なのは正直解せない。その発想ができるなら高校数学は余裕では。

 

23.雪影村殺人事件

 叙情・ノスタルジアを前面に押し出した金田一の異色作。
 ミステリにはそこまで比重が置かれてなくてトリックも簡素なんだけど、もう戻らない過去を切なさたっぷりに振り返る話は正直大好きなのでシリーズ通してかなり好きな作品です。事件が終わった後残った人でタイムカプセルを掘り起こすシーンもいいし、最後に金田一がもう一人の父親と帰路の列車で出会って語らうところで〆るの本当に素晴らしい。金田一の普通の人間臭さがすごくいい方向に働いてると思います。
 あんまり語ることもなかったのか犯人たちの事件簿が1話で終わったのはわかりみしかない。語ることないもんな……。

 

24.露西亜人形殺人事件

 高遠がたぶん一番輝いてる事件。
 第二シリーズの薔薇十字でも思ったけど高遠は正直金田一の敵側として出てくるより事件に巻き込まれて金田一と共闘関係にならざるを得ない方が魅力的だと思います。
 コナンの場合、黒の組織がコナンに味方してもどうなんだ感はある(最初から黒の組織を裏切ってる人は別)けれど、金田一の場合高遠が単独犯なのと金田一にとって「推理面で隙のない強敵」というより「金田一と根幹の思想が全く交わらない敵」である印象のが強いからかもしれません。思想が異なる人たちが共闘するのって燃えますよね。
 性悪説を信奉し犯罪を芸術だと謳う高遠が犯人に向けた言葉と、あの二段オチは高遠がいてこそだと思います。たぶん金田一単体だとこの話は成立してない。
 犯人の小物っぷりと暗号解き明かしはかなりいいけど、メイントリック、知恵の輪じゃないですかね? そこだけ引っ掛かります。

 

25.怪奇サーカスの殺人

 中学生の女の子の着替えシーンをのぞき見する金田一。何もかもが無理のある魔犬と違ってこっちはトリックの成立のためなのである程度しょうがない……いやでもコンプラって字を腕に彫るくらいは許されるな。
 手がかりやトリックなどがわりと子どもっぽいなあと思うけどまあさもありなん。何気に二三がメインの事件に出てくるのってかなりレアでは?
 犯人の自殺をすごい助け方をする。すごい助け方!

 

26.金田一少年の決死行

 香港舞台!シリーズオールスター!豪勢な舞台で第1期ラストの事件。トリックはまあそこまで……感あるけど金田一が追われていくサスペンス展開と犯人の意外性で面白い。
 犯人の意外性と作中での掘り下げ描写はたぶん今までで一番。私はこの事件を通して巌窟王のあらすじを知りました。
 犯人が高遠に「普通に生きたい」と吐露するシーンが一番いい。復讐のために生きていく犯人を延々描いていた金田一で「復讐が終わったらどうするのか」に対する一つのアンサーでは。
 写真の国旗がイギリス時代だから、で真相を当てていることは昨今の情勢を鑑みて色々と思うところありますね……。ラストの「君に会えたことが支えだった」はかなりグッときます。

 

○個人的ベスト事件

1位 首吊り学園殺人事件
2位 学園七不思議殺人事件
3位 雪影村殺人事件
4位 金田一少年の殺人
5位 飛騨からくり屋敷殺人事件

 ミステリとしての完成度よりも読んでて面白かった・感動した順。全体を俯瞰すると異人館ホテル~墓場島までが円熟期だと思っていて、この期間はどの事件も面白いです。
 巻数またぎを気にする必要がなかったFILEシリーズと比べるとcaseシリーズは1巻・2巻縛りが窮屈だなと思うけど、雪影村は1巻縛りゆえの綺麗な小品さがいいです。


●再読して気づいたこと

①被害者に言うほど非がない事件がそこそこある(特に初期)

 コナンと比べて被害者が吐き気を催す邪悪、と言われることが多い金田一だけど、正直再読するとそこまで問題がない被害者でもさくさく死んでいます。金田一少年の殺人とかはたして殺す意味あったか……?
 怪盗紳士の殺人あたりから酷い被害者&殺人まで非がない犯人がコンスタントに出てきたので、その印象が強いのではないかなあと思います。

 

②ダイイングメッセージがほぼ出てこない

 なんとなくコンスタントにダイイングメッセージが出て犯人を特定しているものだと思ったので、墓場島まで出てこなくてびっくりした(犯人に消されたものなら悲恋湖であったけど)
 犯人特定に関係のない暗号問題は七不思議・露西亜人形などで出てくるので、頭の中で混同していた気がします。

 

③高遠がそこまで強敵に見えない

 犯人vs金田一の構図を貫く金田一少年の事件簿にとって高遠の存在を引っ張り続けるのはどうかなあと思ってましたが、再読すると存在どうこう以前にまず高遠が犯人として強くない。
 魔術列車での高遠のミスは今後強敵として出すには厳しいもので、他人から指摘されなければ気づかない習慣レベルのミスで犯行がバレる犯人や、果てはそもそもミスらしいミスがない犯人までいる以上高遠が強敵には見えないんですよね。作中ではっきり明言された体重を計算してなかったのは落ち度以外の何物でもない。
 ゆえに露西亜人形のように思想の異なる対立者ポジションの方が輝いて見えます。

 

 以上。短編集・小説は長編ほど思い入れがないので省略。しかし小説は金田一が本当に死神になったところで終わったんですけどあれ続き出ないんでしょうか。