Yの悲喜劇

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【小説】ぼぎわんが、来る(澤村伊智) 映画を振り返りつつの感想

 「来る」が8月よりアマゾンプライムビデオ見放題に入る。

 ちょうど原作の「ぼぎわんが、来る」を読んでいたので、タイムリーだった。

 幸せな新婚生活を営んでいた田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。取り次いだ後輩の伝言に戦慄する。
それは生誕を目前にした娘・知紗の名前であった。原因不明の怪我を負った後輩は、入院先で憔悴してゆく。
その後も秀樹の周囲に不審な電話やメールが届く。一連の怪異は、今は亡き祖父が恐れていた“ぼぎわん”という化け物の仕業なのか?
愛する家族を守るため秀樹は伝手をたどり、比嘉真琴という女性霊媒師に出会う。
真琴は田原家に通いはじめるが、迫り来る存在が極めて凶暴なものだと知る。はたして“ぼぎわん”の魔の手から、逃れることはできるのか……。

“あれ”からは決して逃れられない――。綾辻行人貴志祐介宮部みゆきら絶賛の第22回日本ホラー小説大賞〈大賞〉受賞作!

 実は先に映画「来る」を映画館で見ていた。

 映画はホラーが苦手なりに面白かったけれど、感想を回っていると原作既読の方が「原作と違う」とコメントしているのを複数見つけた。

 当時は原作未読だったのでそうなんだ程度にしか思っていなかったけど、このたび原作を読んで分かった。映画と原作はホラーとして別物だ。

 

 以下、映画・原作両方のネタバレしつつの感想です。

 

 

1.怖さが違う

 「ぼぎわんが、来る」は3章仕立てで、各章ごとに主人公が違う。

 1章は田原秀樹視点で語られ、よくある幸せな家庭がぼぎわん=化け物に襲われる洋画チックなホラーになっている。

 田原秀樹視点では、それまで日常に全く問題がなかったのに突然ぼぎわんにめちゃくちゃにされるので理不尽度がかなり高い。

 私は先に映画「来る」を見ているので、田原秀樹が実際は不倫・モラハラ・ワンオペ育児任せの三重苦夫だと知っている。

 けれど、原作1章の時点で田原秀樹をモラハラ夫と見抜くのは難しい。要は「ぼぎわんが、来る」1章は信頼できない語り手の話だ。

 

 映画「来る」は原作と異なり、冒頭から田原秀樹に夫として問題があるのがわかる。映像だと細かい言動にモラハラ夫の素養がにじみ出ている。

 その上妻の香奈は映画と原作で別物だった。原作は映画と違って娘の知紗を虐待してないし不倫もしてない。

 他にも改変されているキャラはそこかしこにいるが(というか改変されていないキャラがいない)この2人の違いが際立つ。

 

 さらにぼぎわんが来た経緯も原作と映画で異なる。

 おそらく画のインパクトと尺の問題で映画は田原夫妻のマンションで大規模除霊祭りになったんだろうと思うが、ぼぎわんがあの世から呼ばれた経緯に田原夫妻が特に関係ない原作の方がおどろおどろしさ・ぼぎわんの怖さが上だったと感じている。

 

 上記の改変により、原作「ぼぎわんが、来る」と映画「来る」の怖さがまるで違うものになっている。

 原作はぼぎわんに襲われる謂れのない善良な人たちだったのに対し、映画は(しょうがないとは言わないけど)わかりやすく悪性のある人たちになっている。理不尽度がまるで違う。

 ホラーにおいて理不尽かどうかはかなり重要なポイントだと思うので、その点だけ取ると理不尽すぎる原作の方が怖い。

 

 あとラストの処理は原作の方がわかりやすく救いがない。ぞっとしたくてホラーに触れているので、原作の処理の方が好きだ。

 

2.映画について

 原作と映画の比較になるとどうしても映画の批判になってしまうけれど、映画単体では十分面白いエンタメだと思う。

 上で終盤の展開が改変されたと書いたが、その通り終盤のド派手なぼぎわん暴走vs琴子の除霊は画の強烈さで大変見ごたえがあって面白かった。

 画が強烈すぎてホラーを通り越してもはや怪獣映画の様相を示しているが、前述の通り原作よりホラー度が削られているので、いっそ怪獣映画に舵を切ったのはエンタメとして正しい……と思う。唐突にぼぎわんの力で車が事故るくだりとかホラーどころかギャグだけど面白かったし。

 

 また原作にあった比嘉の姉妹愛要素が削られた結果、松たか子演じる比嘉琴子がスーパー冷血人間になってしまっている。

 その点はどうかと思わないでもないけれど、日本トップクラスの巫女=除霊役としては、ただ名前と上層部との縁で警察を黙らせるだけの原作よりも、各地から霊能力者を集い権力を動かして大規模除霊祭りを開催した映画の方が説得力は上だと思う。

 

 ホラーとしてはどうかと思う改変をしたかわりに、エンタメに振り切ったのが映画なので、TLで見かけたことがあるけれど「除霊という名の怪獣映画」として見るのが一番面白い映画だと思う。

 なお映画で一番面白いシーンは終盤の除霊でうろたえる野崎(岡田准一)をグーパンで殴らせる琴子です。不覚にも笑ってしまった。

 

 

 アマゾンプライムビデオ、8月配信開始のラインナップは「来る」だけでなく本当に豪華なので大変楽しいです。

 配信中に「カルテット」は見ておきたいですね。

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  • メディア: Blu-ray