Yの悲喜劇

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腐女子/商業BL/読書/漫画/アニメ

【BL雑談】「このBLがやばい!2021年度版」が発売されたのでざっくり分析してみた

 今年はBL漫画をたくさん読んだので、数年ぶりに購入しました。

 面白いな、と思ったのはランキングの集計。

BL有識者40名の回答を、1位=10点、2位=9点、3位=8点、4位=7点、5位=6点で集計しました。なお有識者の総得点がwebアンケートの総得点を下回る場合は、有識者の総得点が、有識者+アンケートの合計得点の50%以上となるよう整数倍されます。

  昔買っていた時の集計はどうだったっけ……と思いつつ、最後の「有識者+アンケートの合計得点の50%以上となるよう整数倍されます。」を名言しているのは珍しい気がした。*1

 調べたがりの性なので、こういうことを明言されるとでは有識者のみのランキングはどれだけ異なるのかが気になったので調べてみた。

 

 ということで、以下有識者のみのランキングや他のざっくりした分析、個人的な感想を記載しています。興味のある方はどうぞ。

 なお、先に申し上げるとこの集計方法は後述の理由により正しかったと私は思っています。

 

 

Ⅰ.「このBLがやばい!2021年度版」ランキングについて

1.有識者のみ集計した「このBLがやばい!2021年度版」ランキング(20位まで)

(△▼○○)は実際のランキングとの順位比較になります。人数は投票者数。

1位(△2) オールドファッションカップケーキ(左岸左岸/大洋図書) 59点/7人
2位(△7) 4月の東京は・・・(ハル/大洋図書) 47点/5人
3位(▼2) 春を抱いていた ALIVE(新田祐克/リブレ)46点/5人
3位(△2) 25時、赤坂で(夏野寛子/祥伝社)46点/6人
5位(△7) 滅法矢鱈と弱気にキス(腰乃/リブレ)44点/5人
6位(△7) 狼への嫁入り ~異種婚姻譚~(犬居葉菜/祥伝社)41点/5人
7位(同位) 親愛なるジーンへ(吾妻香夜/心交社)36点/4人
8位(△10) スケベの青春(畠たかし/東京漫画社)34点/4人
9位(△10) アンチロマンス(日高ショーコ幻冬舎)32点/4人
10位(同位)ギヴン(キヅナツキ/新書館)30点/4人

11位(△4) いつか恋になるまで(倉橋トモ/竹書房)28点/3人
11位(同位)そんなに言うなら抱いてやる(にやま/竹書房)28点/4人
11位(△10)はだける怪物(おげれつたなか/新書館)28点/3人
14位(△14)In These Words(Guilt Pleasure/リブレ)26点/3人
14位(△5) キューピッドに落雷 追撃(鈴丸みんた/東京漫画社)26点/3人
16位(▼12)恋をするつもりはなかった(鈴丸みんた/ホーム社)24点/3人
17位(▼2) コヨーテ(座裏屋蘭丸/フロンティアワークス)23点/3人
18位(▼15)ハッピークソライフ(はらだ/竹書房)21点/3人
19位(△14)一生続けられない仕事 森&三上編(山田ユギ竹書房)20点/2人
20位(△4) セックスドロップ(しっけ/Jパブリッシング)18点/2人
20位(△12)歌舞伎町バッドトリップ(汀えいじ/リブレ)18点/2人

 

 実際のランキング20位までと比較すると、ランクアップ:14作品、ランクダウン:8作品、同順位:3作品。

 webアンケートとだいぶ乖離していることが分かります。

2.有識者の点数は何倍されたのか?

 先に答えを示すと4倍されている。

 分かりやすいので、実際のランキング6位「不死身の命日」(虫歯/ホーム社)で計算してみる。

 ランキング得票数:259点 - webアンケート得票数:227点 = 32点。

 そして有識者のみの得票数:8点のため、32点 ÷ 8点 = 4倍。

3.その他ランキング(20位まで)分析

①出版社別ランクイン作品数

1位 東京漫画社ホーム社:各4作品

2位 竹書房:3作品

3位 大洋図書祥伝社:各2作品

その他 リブレ・新書館フロンティアワークス幻冬舎:各1作品

 ②デビュー年数別ランクイン人数

初めてBLの単行本が出版された年を基準にデビュー年別に分けてみました。

2019年:1人(犬居葉菜)※デビュー作がランクイン

2018年:1人(左岸左岸)

2017年:3人(夏野寛子、吾妻香夜、赤原ねぐ/瀬森菜々子)

2016年:4人(鈴丸みんた、ハル、にやま、畠たかし)

2015年:2人(虫歯、座裏屋蘭丸)

2014年:2人(はらだ、倉橋トモ)

2013年:2人(たなと、キヅナツキ)

2012年:1人(市川けい)

2000年代後半:2人(腰乃、日高ショーコ

1990年代:1人(新田祐克

③ランクイン作品傾向(ざっくり)

 CP傾向は抜きに、作品としてどういうカテゴリのものかで分けました。

①学生モノ:7作品/20作品中

②社会人:6作品/20作品中

③ファンタジー:3作品/20作品中

④芸能界:2作品/20作品中

(その他ジャンル2作品あり)

 4.ランキング雑感

①今回の集計方法はどうなのか

 冒頭でも触れましたが、個人的にはこの集計方法で正しい=より参考になるランキングになったと思っています。

 というのも、一般投票部門(webアンケート集計)のランキングがTOP10中ホーム社出版(.bloom)作品が7作品という独占状態になっている。

 これでは「1年間でどのBLが一番やばかったか」というよりも「1年間の.bloomコミックスの中でどの作品が一番やばかったか」というランキングであり、商業BL漫画を買う上での参考に全くならない。

 .bloomは良作が多いと個人的に思うし1位の「不死身の命日」は私もいい作品だなと感じたけど、それ以上に一般投票部門のあてにならなさの方が目に付く。

 本誌コメントを見る限り、ホーム社の組織票状態になっているのを見て今回の集計方法を採用したのだなと感じた。

  有識者票の得点を重視する集計方法というと「このライトノベルがすごい!」もそうだけど、あちらは一般投票だとどうしても人気シリーズが強いため(=ランキングが毎年変わり映えしないものになる)という問題回避の側面があった。「このBLがやばい!」の集計方法はランキングの組織票回避につながっており、こういう側面があるのは初めての気づきだった。

②そのほかランキング雑感

 筒状書きでざっくりと。

  • 1位の春抱きは最初長期連載完結はめでたいが1位……? と思ったけど有識者のみ集計等行ったら、有識者票もwebアンケート票もバランスよく取り込んでいたので納得でした。おめでとうございます。
  • オールドファッションカップケーキが有識者投票強そうなのはイメージ通りだけど4月の東京は…が有識者票強かったのは意外だった。
  • 私は2006年~2012年くらいの商業BLを一番よく読んでいたので、最近の作家さんがあんまりよくわからない。ランキングだと2015年以降デビューの作家が中心になっていて参考になる。
  • 今の時代に学生モノが強い印象がなかったのでびっくり。あと芸能界モノは昔と比べると増えたなあと思う。
  • このBLがやばいは昔から「シリアス・センシティブ・切ない」系の作品が強くてエロ重視系は冷遇されていたイメージだけど、今回のランキング見たら昔よりはエロ重視も好まれるようになった気がしてきた。
  • オメガバース、このBLがやばいだと意外と強くなくてびっくりした。滅法矢鱈と弱気にキスは作家票が強そうだし。オメガバースを好んで読む層とこのBLがやばいに投票する層が被ってないのがわかる。
  • ランキングとは直接関係ないけど、有識者の選評コメントのところに各人のBLの好物が記載されているのは、誰の選評を参考にしたらいいか分かりやすくて良ポイントだと思う。

 Ⅱ.「このBLがやばい!2021年度版」全体の感想

1.よかったところ

 まずもって言うと、ランキング結果に不満は特にないです。

こういうランキングは酒の肴として楽しめればそれでいいので、そういう意味では集計方法のおかげで上手い事出版社や作家がばらけていいランキングでしょう。

 有識者の選評コメントは昔から変わらず続けていてありがたいですね。誰を参考にしたらいいのかわかりやすいですし。

 作家さんへのインタビューも良し。ぱふがなくなった今、紙面でBL作家のインタビューが読める機会は貴重。

2.不満点

 読むところが少ない。

 ランキングの文体が合わないので読み飛ばし気味だった私も多少悪いが、有識者の選評コメント、インタビュー、書下ろし漫画、ニューカマーを除くとほとんど読むところがない。具体的に言うと特集が貧弱すぎる。

 絶版になってしまえばBookoff等古本屋を行脚してお目当てを探し回った昔と比べて電子書籍が普及した分気になった過去作品を読みやすい現代において、「ジャンル別お勧めBL」のコーナーが4ジャンル×各4作品だけというのは少なすぎじゃないでしょうか。この特集以外だと電子書籍発コミックスと帯のみ。

 直近で「このミステリーがすごい」「本格ミステリ・ベスト10」を購入していたので、そっちと比べてしまうとどうしても読み応えのなさがつらい。BL作品も1年間たっぷり出ており、過去作品も大量にあるので紹介には困らないはずなのに。

 あとは初代当初から言われているが小説部門が取ってつけた感バリバリなのはやはりいただけない。私はBL小説は門外漢だけど、それだけにいい作品がないか探す指標にしたいのだが、漫画と比べて割かれているページも熱量も違うので、見るたびにちょっと悲しくなる。何より小説部門の有識者の選評コメントがたった12人だけなのは本当にどうかと思った。漫画部門は40人全員選評があるんですけど……。

 

 以上。

 商業BLは来年も読み続けると思いますが、このBLがやばいを来年も買うかはちょっと微妙……。ランキング本の中では値段が張る方なので、それだけに紙面を充実させてほしいですね。

*1:本誌にてこの集計方法は今回が初めてである旨が記載されています