Yの悲喜劇

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【ドラマ】古畑任三郎が復活した

 

古畑任三郎 COMPLETE Blu-ray BOX

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  • 発売日: 2014/05/30
  • メディア: Blu-ray
 

 古畑任三郎が復活!三谷幸喜 小説「一瞬の過ち」(1)

 古畑任三郎が復活した。期間限定、新聞連載。

 嬉しすぎて朝日新聞デジタルの会員になった。リンクの第一話も早速読んだ。大泉妙……一体誰がモデルなんだ……。

 古畑任三郎復活がめちゃめちゃうれしいので、古畑任三郎の良いところ・各シーズンごとのまとめ感想でもつらつら語ります。

 

  

 

1.古畑任三郎シリーズの美点

①コンパクトな作劇

 古畑はアクションもなく、一部の話を除いて大掛かりな演出もない。さらに言うなら登場人物も少ない。

 第1シーズン第1話の小石川ちなみ(中森明菜)回が象徴的で、50分ほどの長さをほとんど古畑任三郎と小石川ちなみのやり取りでドラマを作っている。ワンシチュエーションというジャンルを知らなかったので最初に見た時は驚いた。

 TVドラマとしては相当シンプルなつくりだと思う。たぶん90年代のリアルタイムで見ていてもシンプルだと思う。

 シンプルだからこそ古畑vs犯人の駆け引きにとっぷり浸かれる。最初から犯人が分かっている倒叙式だからこその魅力だ。

②解決後の犯人の一言で犯人の人格が分かるところ

 古畑は基本的に1話解決のドラマなので、謎解き自体も長くないし謎解き後の犯人の語りも短い(金田一少年の事件簿で育ったので短く見えるだけかもしれないが)

 けれど、その短い語りで犯人の人格、ひいてはどういう人生を送り、どのような眼が培われてきたのかがビシバシ伝わる。

 この点において一番好きなのは第2シーズン第7話の春峯堂のご主人(澤村藤十郎)回だ。

物の価値というものはそういうものなんですよ。古畑さん

 春峯堂のご主人はやっていることを鑑みると擁護しようのない悪党なのに、この発言で垣間見える彼なりの美学が見事すぎて素晴らしい人格者のように錯覚してしまう。作中の犯人の中でもトップの悪党なのに!

 古畑任三郎の犯人は何故多くを語らないのか。振り返ると第2シーズン第5話の佐々木高代(加藤治子)回にあった。

今のドラマはしゃべりすぎよ

 ここにたぶん脚本家・三谷幸喜の心情が詰まっている。

 

2.各シーズンごとの感想

①第1シーズン

 最初なので脚本も役者も手さぐり。田村正和の演技も今モノマネされるようなねっとりさはないし、今泉も普通の刑事だ。

 けれど前述の小石川ちなみ回の時点で犯人vs古畑の構図は完成されている。手さぐりな分第1シーズンが最もこの構図を楽しめた気がする。

 私が特に好きなのは第5話の米沢八段(坂東八十助)回と第6話の井口薫(木の実ナナ)回。

 どちらも「目的のために人殺しという手段まで用いたのに、人殺しをしたために目的が叶えられなくなる」展開がとてつもなくツボにはまった。無常さがいい。

 犯人として好きなのは米沢八段と中浦たか子(桃井かおり)。米沢八段は骨の髄まで合理性の人であったがゆえに引き下がれない自縄自縛さがいいし、おたかさんは桃井かおりの雰囲気あるけだるさが好き。桃井かおりっていつみても唯一無二のムードある人だなあと思う。

 犯人役というと、子どものからバラエティで見ていた堺正章小堺一機の犯人役は不気味だった。特に堺正章小堺一機(あと鶴瓶師匠)はコメディ回だったのでいいけど、マチャアキは普通に怖い。

 ミステリ的には死体が握った白紙1枚から論理的に詰めていく小石川ちなみ回と同じく合理性の人を堅固なロジックで落とす米沢八段回が好きで、あと犯人は明白で事故か故意かを探る大宮十四郎(小林稔侍)回は面白い試みだなあと思った。

 全部のシーズンを見返すと小石川ちなみの扱いが異様に良すぎるんだけど、三谷幸喜は明菜ちゃん世代なんだろうな……。

②第2シーズン

 リアルタイムで初めて見たのは第2シーズン。正確には当時キムタクファンだった母につられて林功夫回を見て、そのあとの佐々木高代回が子供心に怖くて眠れなくなってしまったのがリアルタイムの思い出です。子供の頃はドラマの殺人シーンが駄目だったんだ……。

 手さぐりだった第1シーズンに比べるとテンプレートが完成している。ねっとりした古畑・ダメ刑事今泉のイメージは第2シーズンになってから確立したもの。

 後述の理由によりスピンオフの「今泉慎太郎」も含めて見てほしいシーズン。

 単話としては前述した春峯堂のご主人回と小清水潔明石家さんま)回が特に好き。古畑vs弁舌合戦が法廷で繰り広げられる小清水回は論理を持ってねちねちと犯人をいたぶる古畑の良さが隅々まで発揮されています。

 ミステリ的な点も含めて好きなのは、同僚教師を殺したホワイダニットをたどる宇佐美ヨリエ(沢口靖子)回と、すでに終わってしまった完全犯罪を夜行バスで話を聞いて謎を解くのり子・ケンドール夫人(鈴木保奈美)回。

 特に宇佐美ヨリエ回は宇佐美自身の行動規定をもって自白を迫る流れが印象的で、たかがあれだけのことで自白をしてしまうところに彼女が生きてきた世界が伝わるのがすごい。今見直してもこのくだりが古びない、というか特殊設定ミステリが流行っている今の方が受け入れられる気がする。

 動機という面だと佐々木高代回もいい。「だって思いついちゃったんだもん」で長年不仲だった妹を殺しちゃうあたりが茶目っ気あるお婆ちゃんだなあと思いつつ怖い。

 あとは若林仁(風間杜夫)回がコメディに振り切ってて面白い。完全犯罪を遂げたはずなのに、その後の運が悪くて雑に起こした第二の殺人で古畑に即看破されて延々いたぶられて終わる。かわいそう。

 全体を通すと古畑の性格の悪さが一番出たシーズンだと思う。

③第3シーズン

 リアルタイムでちゃんと見たシーズン。毎週TVの前で正座して見てた。

 第1シーズン・第2シーズンと比べるとレギュラーが増えてにぎやかになった反面、犯人vs古畑を楽しみたいので前シーズンの方が面白かったなあと思う。

 西園寺は真面目系有能ワトソンで今泉との差別化できてていいと思う*1けど花田はちょっと厳しい。途中からチャンネル変えた視聴者でも話に入りやすいように配置されたキャラというのはわかるんだけれど。八嶋智人は好きなだけにもっとドラマに茶々入れないポジションで出てほしかったな。

 第3シーズンは安斎亨(津川雅彦)回がすごくいい。全体でもトップクラスでいい。いきなりこの話を見てもそこまでピンとこないと思うけど、それまで古畑任三郎を見ているとこの回の顛末は涙腺にビシバシ来る。

よろしいですか。よろしいですか? たとえ、たとえですね、
明日死ぬとしても、やり直しちゃいけないって誰が決めたんですか?
誰が決めたんですか? まだまだこれからです。

  古畑の説得シーン、今まで謎を解いてきた探偵の切なる願いが駄々洩れで、思い返すだけで涙が出てくる。

 あとは堀井岳(福山雅治)回が、犯行から証拠に至るまで徹底した冷血人間ぶりで好き。クール眼鏡の福山雅治のビジュアルも最高。

 ところでリアルタイムで見ていた時、小田嶋さくら(田中美佐子)回の殺された旦那は愛情表現が下手なだけで奥さんを愛してた人だったんだなーくらいにしか思ってなかったけど、改めて見るとラストの処理を含めてもただのモラハラクソ野郎じゃないですか?

スペシャ

 2時間尺なのでほとんどの事件が通常回より込み入ってる。ただ犯人が右往左往してた二本松晋(陣内孝則)回とか。

 SMAPイチロー回は実在の人物を犯人役にすることについての配慮が随所にされている。けれどSMAP回はそれでも放送後ちょっと新聞の感想欄が荒れたりしたので、実在の人物をフィクションのドラマで扱うのって難しい。SMAP回とか今だったらできないよね……。

 どの話も2時間だからできる話の作りで面白い。前述のSMAP回で黛竹千代(松本幸三郎)回が特に好きで、ただの金満外交官じゃないんだと思わせてからの古畑の断罪が強い。ドラマによくある顔の濃い日本人を外国人役で起用、のどんでん返しもいいです。あーそういう起用ねくらいにしか思ってなかったので。

 ラスト3本立ては、リアルタイム視聴時は堀部音弥・天馬恭介(藤原竜也石坂浩二)回が一番好きで、大野もみじ・かえで(松嶋菜々子)回が一番微妙だなと思った。正直双子と見た瞬間に話の予想はつくので……。

 けれど改めて見返すと大野もみじ・かえで回がやりたかったのは双子トリックとかミステリ的な意表を突くことではなく、犯人vs古畑の原点に立ち返ることだったんじゃないかと思う。

 大野もみじ・かえで回は古畑ともみじ・かえで以外の登場人物は基本モブだ。西園寺・今泉も2人もちょっと一言残す程度のキャラになってるし、向島さんはイチロー回で役目を終えて出演していない。

 古畑ともみじ・かえでの3人だけの話だ。作中でも引用されたけどこの小ささは小石川ちなみ回を彷彿とさせる。第3シーズンから顕著に登場人物が増えてきたシリーズについて、最後の最後にシンプルな原点に立ち返ったんだな、と思う。小さな話なので〆も静かだけど、それが古畑らしくていい。

 シリーズ通して見て面白いのは他だとSMAP回。SMAP全員のパブリックイメージがドラマになることでいつもよりはっきり見えて楽しい。責任感が強い中居ちゃんとかフリーダムな吾郎ちゃんとか。正直他アイドルでvs古畑任三郎やってほしいと思ってる。

 キムタクは古畑任三郎で唯一2回犯人役をして、2回とも古畑の策略に引っ掛かってボロ発言を出してる。三谷幸喜の中で当時のキムタク像はこういう引っ掛かりやすい人という立ち位置だったのかなあ。

⑤巡査・今泉慎太郎&消えた古畑任三郎

 第2シーズンの番外編にして真の完結編。

 消えた古畑任三郎は総集編の体で今まで逮捕してきた犯人の話を聞きながら失踪した古畑の行方を他刑事が追う話であり、同時にワトソン=今泉がホームズ=古畑を殺そうとする話である。(半分過失だけど)

 ワトソンが犯人役の話はいくつもあるけど、このオチはなかなかにひどい。

 今まで第2シーズンを見ていた人間としてはえっどうして!?という驚きよりも、まあ殺したくなるよな……という納得感の方が強いのが本当にひどい。

 巡査・今泉慎太郎は本編の裏側で今泉が何を思っていたのか、科学捜査研究所の桑原(伊藤俊人)に愚痴る内輪ネタのオンパレード。面白いしこれを見ると今泉が古畑の日ごろの所業を恨んでるのが分かる。まあ130万超えの壺割られたもんな……。

 今泉慎太郎を讃える歌とトースターに今川焼を無理やり詰め込む回はいつ見ても笑う。

 

 古畑任三郎、配信がFODだけなのでちょっと敷居が高いけれど、ぜひ見てほしいシリーズです。

 そしてこれを書きながらオマージュ元の刑事コロンボをまだ見てないことを思い出した。いつ見よう。

*1:そもそも今泉が第2シーズンでワトソンとしての役割を半ば終えたから出てきたんじゃないかと思うので、第2シーズンが一番好きな人間として西園寺の存在は否定できない